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【つぶやき】

   

  ◆10年早い定年退職

Webネーム 音鎌 業無

『うーん、いいなー、これだよなー』

思わず、仕事中だが独り言が出てしまった。

椅子に座り、涼しい風に当たりながら、ポケーとしている。

 

今の職業はパーキングスタッフ(駐車場係り)、

まるで過去の29年間はなんだったのだろう?? 朝7:30頃から夜11時近くまで日曜・祝日もなし。頭も体も休むこと無くこき使ってきた。

定年まで、あと11年。このままで良いのだろうか?? 

学校を出て二つの会社に勤め、二つの世界しか知らずに、定年を迎えたくない。もっと違った世界を2〜3ヶ所知っても良いのではと、こんな思いで10年早く、50歳にて会社を辞めた。リストラや倒産が新聞紙上をにぎわせている今、辞めるのは贅沢かも知れない。ここが一人身の強さか、簡単に迷いもなく辞表を出した。辞めるのに一年掛かって50歳で退社した。

一年半以上ブラブラした。午前中は図書館、午後からは住んでいるマンションの管理人室にお邪魔した。一年半近く毎日のようにお邪魔していると、さすがに管理人さんも、うっとうしくなったのか、

「音鎌さんソロソロ就職したら」

『うーん、条件が難しいんだよね』

「なに、どんな条件?」

『売り上げ、仕入れ、粗利益の確保、シェアーの獲得がない。電話はかかって来ない。又、かけなくていい。サービス残業もなし、退社の時間が来たらすぐに帰れる。そして忙しくない。こんな感じかな。』

どうだ、こんなのないだろう。まいったか。と思いながら言うと、

「あるよ」

思わず大きな声で、

『え、ほんとに・・・』

「この管理人の仕事をやる前に、定年した後、三年半程、音鎌さんの条件が全て当てはまる仕事、パーキングスタッフと言うのをやってたよ」

『どんな仕事??』

「こうゆう内容かな」

『フーン、世の中広いんだね〜。あるんだー。理想の世界だよね〜。良いなー。自分も探すよ』

明日、ハローワークに行ってみようと思いながら、寝た。

次の日、ハローワークに行くと凄い人である。資料を見ようと思っても、なかなか、手にする事が出来ない。そして、やっと見ることが出来た。年齢でかなり会社の数が限定される。この年だと少ししかない。ふと、その中で昨日聞いたパーキングスタッフが目に止まった。これか、管理人さんが言っていた仕事は。でも同じ会社じゃないだろうなー。たまたまその会社が自分の条件にピッタリで同じ職種でも、会社が違えばありえないだろうなー。と思いつつメモを取る。早速、午後は管理人室へ、

『ハローワーク行ったけど、これがあったよ………』とメモを見せる。

「え、ここだよ。私が仕事してた所は、今、求人してるんだー。誰が辞めたんだろう」とビックリの様子。

さっそく電話。住んでいるマンションと同じ管理会社である。

「履歴書持ってきて、音鎌さん無職だったの………」と電話の向こうから担当者の声、面と向かっていたら、担当者の呆れ顔が、見れたはず。

すぐに仕事にありつけた、それも自分の理想の固まりのような仕事である。

今どきの高齢者の就職難の中、メッチャ、ついているかもしれない。

それから4年、のんびりと仕事をしている。理想を絵に画いたような時間を過ごしている。もっとも29年間があったから、この時間が持てているのかもしれない。10年早い定年退職は成功のようだ。しかし経済的な生活に贅沢はできないが、時間に対しては最高の贅沢である。人生どちらを選ぶかだ。

今まで有給が全く取れなかった。それどころか代休も取れなかった。それが今は、いつでも、何日でも、思いのまま取れる。夢のようである。全てが、今までとは違う。違いすぎて自分だけがこんなに良いのかと、前の会社の人たちに対して思う。

この仕事はAM7:30PPM9:30の間を4人で働くため、4つのパターンの通勤時間が楽しめる。

昼から出勤した時に、次の様な事があった。駅まで歩いている時に、ふっと昔を思い出したのである。小学生のころだろうか、何か分からない。でも、何か不思議に小さい頃の事が、スーと出てきて消えていく。なんだろう?でも何か記憶が甦って来る。きっと、強い日差し、光のコントラスト、温度、湿度、風、草木の香り、心のゆとり、きっと、これ等の条件が、昔の思い出深いそのときに、合致したのではないかと思う。これらの条件が遠い昔を思い出させようとしているのではないか、と自分なりに納得しようとしている。不思議な、懐かしい気持ちである。

今まで無かった通勤時間に、出会えたこのチャンスが、この懐かしい出来事に出くわせたのだろうと思うと、得した気分になる。

 4年が過ぎた、そろそろ次の世界を見るのも良いのではないか。しかし、どの様な世界を見たいのか、浮かんで来ない。29年間、ずっと営業だった。

工場で働いてみたい。でも大変かもしれない。又、水商売にも憧れる。若ければホスト、と頭の中に浮かぶ。しかし今の所、決めかねている。

50年を過ぎたのに、また新たな出会いに心躍る今日この頃。毎日が楽しい。